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貝塚市木積（こつみ）の孝恩寺には、平安時代の制作で地方色豊かな19躯（く）の仏像が安置されており、うち18躯が重要文化財に指定されています。今回は、如来像のうち薬師如来像を紹介します。如来は修業によって悟りの境地に達して仏となったもののことで、頭部が隆起した「肉髻」（にっけい）や額の巻き毛「白毫」（びゃくごう）など32の身体的特徴を持っています。もともと如来は、仏教の開祖である釈迦如来のみでしたが、仏教が広まっていくなかで阿弥陀如来や薬師如来などの複数の如来が生み出されました。

時代 平安時代後期
像高 158.4センチメートル
指定年月日 1913年（大正2年）4月14日

薬師如来は、この世のあらゆる病苦を取りのぞく現世利益（げんぜりやく）をもたらす仏として、日本でも古くから各地で信仰されてきました。

本像は、衲衣（のうえ）という一枚衣を偏袒右肩（へんたんうけん）に着し、下半身には裳（も）をつけ、右手は施無畏印（せむいいん）とよばれる印をむすび、左手に薬壷（やっこ）を持って直立した姿をしています。

製作技法は一木造で、頭頂から足ホゾまで、両袖口までを含んで、カヤの一材で彫り出し、両手首先のみを別材としています。内部には内刳り（うちぐり）はほどこさず、全身には黄土（おうど）を塗ることで彫刻材として良質とされる白檀（びゃくだん）を模しています。

はれあがったような肉髻（にっけい）部や大きく刻み出された面部の誇張的な表現は、本像独特の神秘感を醸（かも）し出しています。また、正面からは観察しにくい部分ではありますが、右腕にかかる衲衣が大きく破れたように表現されており、全国的にも大変珍しい作例とされています。様式的にみて平安時代9世紀の制作と考えられる仏像彫刻です。

 
・偏袒右肩：右肩をあらわにする着衣の形。
・内刳り：乾燥による干割れを防ぎ、重量を軽くするために内部を刳りぬくこと